和田倉噴水公園

　彼から「早く帰れそう。」とﾒｰﾙがあった。私も仕事が終わる時間が丁度同じ頃だったので、東京駅で会う約束をした。本好きの彼が待ち合わせを指定する場所はたいてい本屋さんだ。
　昔ﾛﾊﾞｰﾄ･ﾃﾞ･ﾆｰﾛとﾒﾘﾙ･ｽﾄﾘｰﾌﾟが共演した「恋におちて」という映画の中で、二人が待ち合わせをする場所も本屋さんだった。それがとても素敵なのだ。彼がその映画を見たことがあるのかは知らないが、きっと遅れてくるであろう私を待つのに好都合の場所なのだ。
映画のような素敵さは全く無いが、私は書棚の一列一列に見え隠れする彼の姿を探していくのが好きなのだ。
　まだお付き合いして間もない頃、彼の誕生日に指定された場所も池尻大橋の本屋さんだった。その本屋さんの中が電波の届かない場所で、先に着いていた彼にﾒｰﾙをしても電話をしても通じず、本屋さんの場所を必死に探した覚えがある。
今日も待たせた挙句、彼を探している間に本を2冊も買った私は呆れられてしまった。
　遅いﾗﾝﾁを済ませた後、和田倉噴水公園までお散歩した。普段週末しか休めない彼と、平日の日差しの中で肩を並べて歩けるなんて、なんだかとても貴重な時間な気がして嬉しくなってしまう。
公園の木陰のﾍﾞﾝﾁに腰を下ろしたら、丸の内の高層ﾋﾞﾙがそそり立っていた。ｽｰﾂ姿の彼に違和感は無いが、私は丸の内にそぐわない気がする。なにかあのたくさんの高層ﾋﾞﾙが別世界のような気がしてしまうのだ。
　流れ落ちる噴水の裏を歩く彼の後をくっついて歩いた。こんな小さな事が幸せと感じる思いがけない午後のご褒美だった。

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